5月6日(月・祝)、東京ドームのリングでアンディスピューテッド・チャンピオン井上尚弥と対峙した時、人々がルイス・ネリに期待しているのはかませ犬の役割でしかない。メキシコ人サウスポーは2階級制覇の実績を持ちながらも、「BeeBet」が井上の勝利「1.04」倍に対して、ネリの勝利「9.25」倍のオッズをつけるほど、この試合で圧倒的不利と予想されている。
ネリが番狂わせを起こし、井上有利を予想するファンやエキスパートに一泡吹かせることは可能なのだろうか。ボクシングの歴史には、驚くべき結末の待っていた試合が全ての階級で数多く存在している。最近で言えば4月20日(土)、ライアン・ガルシア(アメリカ)が圧倒的不利というオッズを覆し、PFP(パウンドフォーパウンド)のスター、デビン・ヘイニー(アメリカ)に初黒星をつけた例もある。この結果を予想できた人は多くはないだろう。
井上(26勝0敗、23KO)は現在、世界中に敵なしの強さを見せつけているファイターだ。そのパンチで4階級制覇を果たし、これまでにノックアウトも量産してきた。しかも、80年代「黄金の中量級」の1人として史上初の5階級制覇を果たしたトーマス・ハーンズとは異なり、井上は強打を受けてもびくともしないように見える。
対するネリ(35勝1敗、27KO)もまた素晴らしいファイターである。メキシコのティファナ出身の元チャンピオンは世界レベルのスキルに加え、戦績が示す通りの強烈なパンチもある。この点で、井上がこれまでこの階級で勝利した2人のボクサーとは大きく異なる。スティーブン・フルトンは21勝のうちKO勝利は8戦のみ、マーロン・タパレスは37勝のうちKO勝利は19戦のみだった。だがネリには対戦相手を打ち砕く力がある。
ここでは、ネリにとってキャリア最大の大一番となる井上尚弥戦の勝利の可能性について探っていく。
ルイス・ネリは井上尚弥をノックアウトできるのか?
もしネリがベストショットを相手の顎に命中させられれば、スーパーバンタム級の誰が相手であってもノックアウトするだけの力がネリにはある。パワーの使い方も巧みで、『リングマガジン』の年間最優秀試合にも選ばれたアザト・ホバニシャン(アルメニア)戦ではそうしたシーンが何度となく見られた。
ネリはまた、カウンターパンチの名手でもあり、特に左のパンチはスピードがある強力な武器だ。もし井上に一撃入れることができれば、大きなダメージを与えられるはずだ。加えて、ネリには持ち前の負けん気、一気呵成に攻め込むだけの勇気がある。
問題は、井上を仕留められるかだろう。過去24戦のうち、井上が窮地に陥ったのはわずかに1試合、2019年の年間最優秀試合に選ばれたノニト・ドネア戦だけだ。その試合、井上は眼窩骨を骨折し、少なくとも2回ほどふらつく場面が見受けられた。 しかし、それだけのダメージを受けながらも、井上は12回を戦い切り、ユナニマスデシジョンで判定勝ちを収めた。日本が誇るスターは、勢いを取り戻したレジェンド、強烈なパンチを持つドネア相手に真っ向から勝負してみせた。
ネリが井上からKOを奪ったら大騒ぎになるだろう。
ルイス・ネリは井上尚弥相手に判定勝ちを収められるか?
強烈なパンチ力を持ち、数々のノックアウトシーンを繰り広げてきたボクサーの場合、得てしてそのほかの武器は霞んでしまうもの。ボクシングファンの見方はそういうものだ。
しかし、井上には完璧なテクニック、タイミングのうまさがある。昨年5月のスティーブン・フルトン戦前には、ボクサーとして優れたフルトンを相手に井上が苦戦すると見る向きも多かった。しかし、井上はこの才能あるアメリカ人ボクサーを前に戦術面でも上回り、最後は強烈な一撃でマットに沈めてみせた。
ネリのスキルも評価されてしかるべきものだが、井上を全てのラウンドで上回ることができるだけのスタイルを持ち合わせているわけではない。軽量級でそれだけの力を持つボクサーは今のところ見当たらない。ただ、序盤のフレッシュな状態でダメージを回避できれば、メキシコ人ボクサーには井上に肉薄するだけのだけの力はある。
ネリにとってアドバンテージとなりうる点があるとすればワークレートだ。ホバニシャン戦でネリは11回のTKO勝利までに688回のパンチを放ち、210回をヒットさせた。タパレス戦の井上は同じく11回までに410回を放ち、ヒット数は146回だった。とはいえ、この2試合を比べること自体、あまり意味はないだろう。
ネリが多くのパンチを繰り出しながら井上を相手に12回を戦い切り、判定勝ちできるか? 賢いギャンブラーならその賭けには乗らないだろう。